「さむっ…。さすがに12月だと砂の里もさむいなー」

夜の空気の冷たさに、ぶるりと身体をふるわせてナルトは言った。
その様子に我愛羅も少し笑って返す。

「そうだな。まあ、いつでも夜になるとここは冷える」

部屋から抱えてきた厚手の毛布を渡してやり、自分もそれを羽織った。

「へへっ。さんきゅ〜。さすが我愛羅は用意がいいってば」

「慣れているからな」

持ってきた魔法瓶とマグカップを袋からだし、熱いココアを注いで渡すとナルトは嬉しげに受け取った。
ちょうど、切り立った崖の端から足を投げ出すように座り、一口、二口、湯気を立てるココアをすする。
キンと冷えた夜の空気に、寄り添って座った互いの体温が余計に暖かく心地いい。
それが、なんとなく嬉しくて、どちらからとも無く顔を見合わせて笑った。

「なあ、ここにはよく来んの?」

どこか行きたい所はあるか?と聞いた我愛羅に、ナルトはこの里でお前が好きな場所に行きたいと答えたのだ。
我愛羅はしばらく考えていたようだったが、夜になったら、といった。
言葉のとおり、夜になって連れてこられたのは、里の入り口のあたりの見晴らしの良い高台で、
砂漠も里の全景も良く見える場所だった。
誰も来ない、一人きりでいられる所だけれど、どこか遠くに人の気配が感じられる場所。
昔、自分がどうしようもない気分のときに、一人きりで遊んでいた場所とひどく似ていた。
傷つかずに済んで、孤独になりすぎずにすむ距離。
自分たちはこんなところも良く似ている。

「そうだな…。」

そう、考えるように呟いて、我愛羅は視線を遠くへ向けた。

「子供の頃は毎晩のように来ていた。今もたまに来るな。」

ぽつり、ぽつりと途切れがちに言葉をつむぐ。

「いつも夜にくる。夜だとここには誰も来ないから。いつも砂漠と空を見ていたな。」

星がきれいに見えて…そう呟いて我愛羅は空を見上げた。
いつも変わらない、降ってきそうなほどの星空。

「昔から、この場所が一番落ち着いた。どうしてだろうな…。でも、いい場所だろう?
なにもかも吸い込まれていくみたいで静かな気持ちになれる。」

「そっか…」

静かな声に相槌を打ちながら、ナルトも空を見上げた。
月明かりに照らされた、どこまでも続く砂地と澄み切った夜空と無数の星。

「大抵、どうしようもない気分の時にくるから、こんなに落ち着いてこの景色を見ることはないんだが…
 …でも…お前とこられて、よかった。」

秘密を打ち明けるようなそんな声だった。空に視線を向けたままの我愛羅は、静かに笑う。
やわらかい月の光に浮き上がるその表情が穏やかなものであることが嬉しいと思った。
他の全てが恵まれて見える日があることを知っている。
人の中にあるときに余計に一人であることを思い知らされる日があることを知っている。
昔、自分たちが心に負った傷は良く似ていて、とても深く、癒されたように見えても、時々ひどく疼くことを。
他の誰が解らなくても、自分達は良く解っているから。

だから、自分たちは一緒にいて、その痛みを晒すことができるのかもしれない。
包まった毛布の端からのぞいている白い手をぎゅっと掴む。
体温と一緒に心まで伝われば良いとナルトは思った。
握り返してくる冷たい手の強さに自分たちが同じように感じているのだと信じようと思った。

「なあ、我愛羅…」
「…ん…?」
「オレってば、やっぱお前のことが好きみたい。」

こっちを凝視して、絶句している顔がかわいい。そのまま、体格差にものを言わせて背中から抱き込む。

「…!!…おまえっっ…!!」
「いいじゃん。」

じたばたと暴れる身体をぎゅうっと抱きしめて体全部をくっつける。自分達はもう一人じゃない。

「好き。マジで好き。大好き…。」

ナルトは額をその細い肩に埋めるように預けて笑った。いくら、言葉にしても足らないくらい愛しさがとまらない。

「ほんと、会えてよかった…」
「それは、オレのセリフだ。」

泣き笑いのようにこぼれた声に、ぽつり、と我愛羅はつぶやいた。

「あえて、よかった。」

それは小さくかすれた、それでも、胸が痛くなるほど重い言葉。
泣いてしまいそうで、抱きしめる腕に力をこめると、我愛羅はうつむいたまま少し笑う。
そのまま背中を預けて、そっと耳元に。

「…………る…」
「…!!!!我愛羅!?」
「なんだ?」

耳に届くか届かないかの声でささやかれたのは。
びっくりしすぎて固まるナルトに我愛羅は涼しい顔で。

「……!!もう一回!!もう一回言って!!頼むから!!」
「さあな。聞いてなかったのか?」
「意地悪言わないでさー!!頼むってば!!」

くすくす笑って身体を離して立ち上がる。

「そろそろ、戻るか。テマリたちがうるさいからな。」
「我愛羅〜!!」

 

伸ばされた手を掴む。

冷たい星空の下で、繰り返し願ったことは何だったのか。

痛みをこらえて蹲っている自分に差し伸べられる暖かい手ではなかったか。

手を伸ばせば届く、暖かい手。

互いを支えあうことができる温度。

たぶん願いは叶ってる。

あとは、つないだ手を離さないように。

 

                    fin

 

 

星にねがいを