シング

 

 

真夜中、何か聴こえたような気がして目を覚ました。

掠れるような、なのに柔らかいうた。小さく小さくひびく。

耳じゃなく胸に。

寝返りを打つふりをして窓際におかれた肘掛椅子の方を向く。目はうっすらと開けて。

でも、彼には気付かれないように。

カーテンは開きっぱなしで部屋の奥まで月明かりが差し込んでいた。

薄ぼんやりとした青白い光は、思ったよりもずっと明るい。

ぽっかりと四角く口を開けた窓の外は四角く切り取られた夜空。少しだけ欠けた月が浮かんでいる。逆光で影だけをうつす大きな椅子にはお前がいて、抱えた片膝に頬を埋めるようにしながら小さく小さく歌っていた。

知らないのに懐かしい、うた。

低く紡がれるやさしい旋律。

月明かりに輪郭だけ映すあお前の顔。

表情までは読み取れなかったけれど、伏せたまつげがきれいだと思った。

声はひどく甘く、ひびく。

ただじっと、寝たふりをして耳をかたむけて。

いつまでも、そうして終わらなければいいと思った。

ゆっくりと夜が朝に変わっていく、それまで。

ただじっと、月明かりの映す影だけを見て。

動けないままその影を眺めた。

オレは目を閉じて、ただ、ひびくうたを聴く。

なあ、これは、ゆめ?

しあわせで、しあわせで。なのに、切なくて、愛しくて、哀しい。

お前の……。

ゆっくりと沈められていく意識。ゆっくりと沈んで、沈んで。

曖昧なゆめと現の境で、祈るように彼の薄い色の目が静かに閉じられるのが見えた気がした。

 

 

 

                           Fin